オンドールの真意

バッシュはある覚悟を決めていた。
敏感なバルフレアは、まだ、確信はしていなかったが バッシュのその覚悟を察していた。ただ、どう言った形でバッシュがそれをやり遂げようとするのかは見当がつかなかった。
いずれにしても、バッシュが危ない橋を渡ろうとしたらバルフレアは止めるつもりでいたのだ。
そんなバルフレアの心配も、バッシュの思惑も、ヴァンは知る術もなかった。とにかく彼は、パンネロを助けたかった。

ハルム・オンドールは、非常に聡明そうな外観をしていた。しかしその聡明さが、信用できるものなのかどうかはわからない。バッシュは、その真意を掴もうと、用心深くオンドールの表情を見つめていた。
「バッシュ・フォン・ローゼンバーグ卿。私は貴公が処刑されたと発表した立場なのだが?」
静かな声でオンドールが口を開いた。
「だからこそ、生かされておりました」
その言葉の意味が、オンドールにはよくわかっていた。「・・・つまり、貴公は私の弱みか」そう言って、苦笑した。
しかしバッシュはグズグズはせず、すぐに、ずっと思案してきた「自分の覚悟」を 実行に移したのだった。
「反乱軍を率いる者が帝国の手に落ちました」そう言って、さらに深くオンドールの表情を読もうとして言った。「・・・・アマリアと言う女性です。救出のため、閣下のお力を」
「・・・・貴公ほどの男が救出に乗り出すとは・・・よほどの要人か」
バッシュは、うやうやしく丁重に胸に手をおき、オンドールに懇願の意を示した。
「・・・立場と言うものがあるのでな」オンドールはバッシュを居直らせ、穏やかに答えた。

ヴァンにはバッシュが何を企てているのか見当もつかなかったが、 どうやらオンドールはバッシュの頼みに協力しないつもりでいるようだ。 ならば・・・
「ラーサーに会わせてくれ!オレの友達が一緒なんだ」と、とっさにラーサーを引き合いに出してみた。 しかしラーサーはすでに帝国軍に合流し、今夜到着予定の戦艦リヴァイアサンに乗って ラバナスタに向かうことをオンドールは告げた。
それを前提にして、さらに頭を下げ続けるバッシュを試すようにオンドールは言葉を続けた。
「ローゼンバーグ将軍。貴公は死中に活を見出す勇将であったと聞く。あえて、敵陣に飛び込めば・・・・ ・・・貴公は本懐を遂げるはずだ」
バッシュは、ハッと顔を上げた。
後ろで話を聞いていたバルフレアも、オンドールの意向を理解して、難関を打破しようとするバッシュを止めようと、彼らの間に割り込もうとした。
しかし、もう、遅かった。バッシュの覚悟は、決まっていたのだ。
「・・・・悪いな、巻き込むぞ」
バッシュはそう言って、オンドールに向けて剣を抜いた。
すると、たじろぎもせず、ともすれば演技がかった態度でオンドールが叫ぶ。
「侵入者をとらえよ!」彼の一言で、側近たちがヴァンたちを捕まえた。
それを見届けたオンドールは「ジャッジ・ギースに引き渡せ」と命令した。
そう言った形で、バッシュの願いを聞き入れたオンドールの真意に気づかなかったのはヴァン1人だけだった。


  • FF12ストーリー あまい誘惑