リヴァイアサン脱出

艦内が非常事態になったのを察知したラーサーは、パンネロの身にも危険が及ぶことを懸念して、発着ポートから彼女を脱出させようと考えていた。帝国兵達はアーシェ逃亡の騒動で混乱しており、ここはパンネロを逃す絶好のチャンスとばかりに、脱出用の飛空挺を探して、リヴァイアサン内を疾走していた。そこへ、アーシェを連れたバッシュたちが現れたのだった。
ラーサーは、安堵して、また、パンネロもヴァンの姿を見て安堵し、「ヴァン・・・」と言って泣きながら、ヴァンに駆け寄った。
ヴァンはパンネロに散々心配をかけてしまったことを反省し、泣きじゃくるパンネロを抱きしめていた。「ごめん、もう大丈夫」
「ギースが気づきました。早く脱出を」ヴァンとパンネロの再会に胸を打つ余裕などない様子のラーサーだった。彼は年端もいかない少年の面影を一つも感じさせず、テキパキとウォースラに飛空挺での脱出を指示した。
「正体を知った上で逃がすのか」
幼いとはいえ帝国の人間であるラーサーに、ウォースラは怪訝そうに訪ねた。ラーサーは頷いて、静かにアーシェ、そしてバッシュを見つめた。
「アーシェ殿下、あなたは存在してはならないはずの人です。あなたやローゼンバーグ将軍が死んだことにされていたのは、何かが歪んでいる証拠です。今後、あなた方が行動すれば、もっと大きな歪みが見えてくるように思います。だから行ってください。隠れた歪みを明らかにしてください。私はその歪みを糾して、帝国を守ります」
ラーサーの思いを知った一行だったが、「わかりました」と、アーシェは自分の無力さに絶望しながら、不服そうに答えた。
「どうもな、"ラモン”」ヴァンは、ラーサーが嫌いではなかった。彼の思いを知り、それを理解した上で、親しいを込めて皮肉っぽく言ってみせた。
「あの時はすみません」ラーサーは、心から申し訳なさそうに謝り、パンネロに何かを差し出した。「これ、お守りがわりに」
ルース魔石鉱で彼らに披露した人造破魔石をパンネロに渡した。パンネロは訳がわからない様子だったが、説明する間もなく、敵が迫ってくる前に、ウォースラとともに脱出できる飛空挺を探しに先を急いだ。


ラーサー達より少し遅れてヴァン達は飛空挺の発着ポートへ到着した。しかし、そこにはすでに先回りしていたギースが彼らを待ち構えていた。こちらの思惑は全て見通されていたようだ。
「残念ですな。ダルマスカの安定のために、協力していただけるものと信じておりましたが」ギースはそう言って、アーシェにジリジリと攻め寄った。「まぁ、王家の証はこちらにある。よく似た偽者でも仕立てれば良いでしょう。あなたは、王家の資格も価値もない!」
すでに黄昏の破片が手に入った今、帝国にとってアーシェは何の価値もない無力な女性でしかなかった。ギースはこの時点で不要になったアーシェを殺害するつもりでいたのだ。
ギースはアーシェに向けて炎の魔法を放った。しかし、パンネロの持っていた人造破魔石が眩しい光を放ち、炎を全て吸収してしまった。
「なんなの?」
呆然としてパンネロが言った。
バルフレアは、改めて人造破魔石の精巧さを目の当たりにして背筋が冷たくなっていた。
一方、自分の魔法攻撃を阻止されたギースは、しかし余裕のある様子でアーシェに言った。
「ご立派ですな、殿下。名誉ある降伏を拒むとは・・・全くダルマスカらしい」魔法がダメなら武器でと、ギースは剣を構えた。
「貴様に何がわかる!」アーシェはギースに立ち向かっていった。バッシュ達もそれに続いた。

勝負はつかなかったが、ギースを怯ませた隙に一行は発着ポートへ向かった。そこへウォースラが姿を現し「アトモスを抑えた!」と告げた。
「アトモスか、トロい船だな・・・。主人公向きじゃない」アトモスは飛空挺だったが、シュトラールのように速度を競う船ではなかった。帝国の戦闘機に見つかれば勝ち目はないとバルフレアは懸念していた。
一行がアトモスに乗り込めたのを確認すると、フランとバルフレアは操縦席についた。
「早く、早く、全開!」パンネロが焦ってフランを急かした。
「ダメ」
フランも、アトモスがまともに戦える船ではないことがわかっていた。そんな船が速度を出せば、絶対に怪しまれる。 焦るパンネロをなだめながら、慎重に、リヴァイアサンから距離を離していった。
やがて、一行の目の前に空だけが広がった。
どうやら敵の目を欺けたようだ。
トロトロと飛行するアトモスの操縦桿を握りながら、フランは改めて、帝国兵に見破られなかったことに安堵した。


  • FF12ストーリー あまい誘惑