空賊が手にした宝

戦火がおさまったのもつかの間、バハムートは爆発をしながらラバナスタ市街地に向け、さらに高度を下げていった。ミストを大量に吸収したバハムートが爆発すれば、ラバナスタはナブディスと同じ運命を辿る。アーシェはいてもたってもいられず、しかし、なすすべも無く船内をウロウロするばかりだった。
そのとき、オンドールの通信機に、帝国の艦隊アレキサンダーから入電があった。
「アルケイディア軍ダルマスカ方面第12艦隊、旗艦アレキサンダー、艦長ジャッジ・ザルガバースだ。我々はこれより、ラバナスタへのバハムート落下を阻止すべく・・・バハムートへの特攻を敢行する」
思わず我が耳を疑ったオンドールは「何!?」と聞き返してしまっていた。
「このままでは魔法障壁が持たない。そうなればダルマスカは全滅する。貴艦隊は、衝突によってバラバラになった アレキサンダーの破片を更に攻撃してくれ・・・・」
ザルガバースにとっては、ドレイスを犠牲にしてしまったことと、ブルオミシェイスで都民を虐殺してしまった事への償いだった。彼は今、己の身を犠牲にして、人々を救おうとしていたのだ。
「はいはい、命を粗末にするのは流行らないよ」
そのとき、全艦にバルフレアの声が響き渡った。
「バルフレア!?」バルフレアがシュトラールのエンジンルームにいるとばかり思っていたヴァンは「バルフレア、一体、どこにいるんだ」と、思わず尋ねていた。


バルフレアとフランは崩壊寸前のバハムート要塞内でグロセアリングを修理していた。彼らの後ろで小爆発が起きているのが聞こえていた。
「よう、ヴァン。うまく脱出できたみたいだな。シュトラールはいい飛空挺だろ?」
「何をするつもりだ、バルフレア?」バルフレアの通信機にオンドールの声が聞こえた。
「おっさん。アレキサンダーのばかジャッジを止めてくれる?俺が一生懸命グロセアリングを修理してるんだ。もうちょいだから、特攻なんて馬鹿な真似すんなってね」
その声はアーシェにも届いていた。大きな爆音とともに、バルフレアが、ウワッと声を上げるのが通信機から聞こえてきた。
アーシェはたまらず、通信機を手にとった。
「あなた・・・あなた、一体何をしているかわかっているの?」
そんなことを言いたいのではなかった。
ラスラを失い、父を失い、国を失い、そしてバルフレアに会った。ラスラの幻影を追っていたはずなのに、自分はバルフレアに引かれていた。
ああ、なぜ、気づかなかったのだろう。
復讐とか、破魔石とか、過去とかが邪魔をして、今の今まで気づく事が出来なかった。
自分を過去から救ってくれたのは、バルフレアだった。長く辛い旅路に、今まで彼の言葉があったから、自分はここまで来れたのだ。
それなのに、感謝の言葉すら言えなかった。
そう言いたいのに、アーシェは言葉に詰まってしまった。
「・・・王女様、心配ご無用だ。オレを誰だと思っている? この物語の主人公だぜ」
バルフレアも、また、アーシェの気持ちに気づき、受け止めてきた。
そうだ、もう、随分前からだ。
多分、ビュエルバで、王女を盗んだときからだろう。
その時のことを思いだし、バルフレアは幸せな気持ちになった。
死んで、父シドの罪を償うつもりだった。
でも、人の死で、アーシェをこれ以上悲しませてはいけない。
だからオレは死なない。
今、オレは手にした。
王女の結婚指輪に代わる、最高の宝物を。
だから生きて、必ず・・・・
「主人公は・・・・死なない・・・・のさ」
そう言って、バルフレアはグロセアリングを再起動させた。


バハムートが高度を上げた。
「やったぜ!」
彼はガッツポーズをして「フラン、グロセアリングに動力を回せ」と言った瞬間、大きな爆音がするのを聞こえた。
ハッとして振り返ると、フランは爆風で飛んで来た建物の破片の下敷きになっていた。
「・・・・世話のかかるヤツだ」そう呟いて、フランの元へ駆け寄った。
「・・・おねがい、バルフレア。 早く、バハムートを脱出して・・・・お願いだから・・・」
通信機から、泣き出しそうなアーシェの声が虚しく響いていた。「あなたが死んだら・・・・あなたが死んだら、私は・・・・」
アーシェの思いを胸にし、バルフレアはフランを救出していた。フランはからかうようにバルフレアを見つめた。
「二枚目は大変ね、バルフレア」
「ばーーーか」バルフレアはフランを抱き上げ、脱出できそうな艦隊を探しながら、通信機に叫んだ。「ヴァン、シュトラールを預けたぞ。必ず取りに戻るからな。傷つけたら承知しないぜ!」
ヴァンは、シュトラールを操縦しながら、アーシェが握っている通信機に向かって叫んだ。
「うん、わかった!オレ、待ってるよ!」
シュトラールは、バハムートからどんどん離れていった。
バハムートも、夕日に沈むラバナスタからどんどん離れていった。
「バルフレア・・・・!」アーシェは遠のいて行くバハムートに向かって、叫んだ。
もう、通信機からは、何の返事もなかった。


  • FF12ストーリー あまい誘惑